人が一番怖いと思ったお話をします。(このお話は全てフィクションです。信じないでくださいね。)
私は若い頃、お恥ずかしい事に世間一般で言えばチンピラのようなしょうもない人間でした。
定職には就かず、その場しのぎで先輩や知人からもらう仕事をこなす日々。
自分が率先して悪い事をして稼ぐタイプというよりかは、金魚のフンのように誰かにくっ付いているタイプでした。
危ない仕事も沢山しました。
中身が何なのかわからない紙袋を、決められた時間に決められた場所にいって「こういう服装をした人間に渡せ」っと、明らかにヤバイ仕事も目をつむってやっていました。
ある日には怖い先輩に呼び出され、そこでドス黒いゼリーみたいなものが目いっぱい入ったバケツを渡され、「深夜海にいってこの中身を捨ててこい。誰にも見られるなよ」とかも。
想像はしたくありませんが、もしかしたらこれは元は人間だったなれの果てなのか?なんて考えると、怖くて考えないようにしていました。
そんなある日、また怖い先輩に呼び出されました。
その先輩は地元でも恐れられている有名な先輩で、名前を仮にNとしておきます。
突然深夜にN先輩から電話がかかってきて「大至急〇〇にある俺の店まで来い」との事でした。
その店と言うのは、先輩がやっているボッタクりバーみたいな店です。
店に到着すると、そこには先輩ともう一人、たまにみる先輩のツレがいました。
足元には人のサイズくらいある大きな黒い袋に何かがつつまれ、上、真ん中、下と3か所ロープでしっかりと縛ってあります。
もうね、見たらわかるんですよ。かすかに原型をとどめたその袋の中身が人だって事は。
袋はわずかに人間の形をしていますから・・・
到着してその場を見た瞬間「これはさすがにまずいだろ」って思いました。
今まで請け負っていた仕事は、中身が分からない状態だったんです。
「持っていけ」って言われた袋だって中身を知らされていないし、「捨ててこい」って言われたバケツの中身はドス黒いゼリー。
万が一警察に掴まっても「中身は分からなかった」という言い訳が出来るというのが、自我を保つ唯一の支えだったんです。
でも今回は違う。ひろゆきさんが見たら「いやいやいや、明らかに中身は人だよね」って分かる形をしている。
そんな戸惑っている私に一切構うことなく、N先輩はこう私に告げた。
N先輩「おい、これ持ってくぞ。持て」
今回だけはさすがに断りたかったが、何より怖いN先輩に逆らう事は出来なかった。
しかもこの場で断ろうものなら、この状況を見てしまった私は、無事にここから出られる事も想像できなかった。
N先輩に言われるがまま、ツレの人と三人でその袋(人)を持ち、車のトランクにいれ、ツレの人が運転する車に乗って山に行く事になりました。
山に行く途中、偶然対向車線ですれ違うパトカーを見ては、必死に捕まらないよう祈っていました。
きっと職務質問って、私みたいな小心者が変な事をしていたら、お巡りさんは見ただけで様子がおかしいって分かるんでしょうね。
車の後部座席の窓が、外からは見えない真っ黒なスモークで良かったです。
そこから車は2時間ほど走りました。人気が全くない山の中へどんどんと入って行きます。
やがて遠い先の方に一つのライトが見えました。どうやら車が止まっているようです。
私たちが乗る車は、先に止まっていたその車の前に停車しました。
N先輩「ここだ。荷物を降ろすぞ。」
三人が車から降りると、もう一台の車からも人が出てきました。
N先輩「お疲れ様です!」
相手はどうやらN先輩の兄貴・親分格のような人だというのは、N先輩の挨拶の仕方で分かりました。
兄貴「そいつ誰だ」
私の方を見て言いました。
N先輩「人手が足りなかったもので。こいつは普段から使っている奴です。口は堅いので大丈夫です」
そう言うと兄貴は少し強めにN先輩のケツに足蹴りをしました。
(こんな姿のN先輩、見た事が無い・・・。)よっぽどヤバい人なんだと分かると尚私は恐怖で震えました。
その後すぐに三人でトランクから袋を降ろそうとした時、突然袋の中から人が叫び始めました。
人「頼むー!助けてくれ!お願いだ!!」
改めて言うほどではないが、やっぱり人だった。
N先輩がツレに「黙らせろ」っと言うと、一緒に車に乗って来たツレの人は「ヘイ」っと小さく低い声で言うと、一緒にトランクに入っていた金属バットでバンバンと袋を叩き出しました。
人「うわ!! うっ!うっ! うぅーー」
7~8発続けて殴ると、袋の中からの声は小さな唸り声だけになりました。
そこでトランクから袋を引きづりだし、三人で肩に担いで兄貴の後ろを歩く格好で運びました。
車が入ってこれない、街頭も一つも無い真っ暗で細い道、懐中電灯片手に歩きました。
少しすると、担いでいる袋が突然強く暴れだし、持っていられなくなったので三人は一度地面に袋を落としてしまいました。
その時、中の人が内側から袋を噛みちぎり、顔が思いっきり袋から出ていました。
そして私と目が合うと、泣きながら「助けて下さい!助けてください!」と大声で訴えかけてきました。
すぐにN先輩のツレが片手に持っていた金属バットで、今度は袋に入っている人の頭を思いっきり数発殴ると、意識を失ったのかすぐに大人しくなりました。
もう、終始私は怖くて体中が震えていました。
また三人で、中から顔だけが出た袋を担ぎ、N先輩の兄貴の後ろをついて行きました。
20分くらいでしょうか。
とにかく奥へ奥へ歩いていくと、少し大きめの井戸がある事に気付きました。
大きさを例えるなら、井戸の中に入って両手を横に伸ばせるくらいの大きさ。
(もしかして・・・)
その悪い予感は的中し、兄貴は井戸の横に立つと私たちに向かってこう言いました。
兄貴「おしっ、いいぞ入れろ」
私はその時、昔バイトで3日だけやったことがある現場仕事(まっとうな仕事)を思い出しました。
兄貴の「おしっ、いいぞ入れろ」っという言い方は、人を井戸に捨てるニュアンス・ノリじゃないんです。
まるで聞いてる人間が、汗水垂らしてまっとうな仕事をしていると錯覚させるような言い方です。
一瞬、今自分がいる所は現場なのかと錯覚するくらいでした。(あれ・・?おれ、あっ?)
袋は先頭がツレの人、真ん中に私、先輩が後ろという順で抱えていました。
後ろからグイッっと持ち上げられると、後はその流れに従って井戸に袋が落ちていきました。
井戸の深さは6~7mくらいでしょうか。
袋が底に落ちると「ビシャ」という、水の跳ねる音がしました。
そこでN兄貴が持っていた懐中電灯に照らされた井戸の底を見ると、そこで私は信じられないほど異常な光景を目にする事になりました
それは何かというと、その人が入った袋の周り、水中からは二人の真っ白い人間のような物が出てきたのです。
髪は一本も生えておらず、服も来ていません。
私はその光景を見て、完全に頭がおかしくなりました。
理解出来ない。今目の前で起きている事が。
その真っ白い二人は、袋が落ちて来た事に気付いて出て来たのだと思われます。
そしてすぐにその袋を二人で覆いかぶさるようにして、井戸の中の水中へと袋ごと沈んでいったのです。
私「あっ・・あっ・・・・」
声にならない声を発していました。
ゆっくりと横にいるN先輩の顔を見ると、N先輩も冷や汗のような物を垂らし、片目がピクピクと引きつっていました。
兄貴「よし、帰るぞ」
そう言われると、誰も口を開く事なく、まっすぐと車に向かって歩き出しました。
(なんなんだあれは・・・洒落になんねーよこれ・・・)
やがて車に到着し、車に乗ろうとした時、兄貴が私に向かって話しかけてきました。
兄貴「分かってると思うが、今日の事は誰にも言うんじゃねぇぞ。」
そう言うと財布を取り出し、ガバっっと札を掴んで私の前に差し出してきました。
あの怖いN先輩が恐れるような人です。私は「受け取れません」っと言おうと思いました。
しかし状況を考えたら、変に断ると逆に私が危ないと思いました。
何故なら、私が警察にチクると思われるんじゃないか?っと思ったからです。
少しでも仲間・俺も悪い人間の部類だから大丈夫という雰囲気を出すためには、この金を受け取った方が良いと、一瞬で判断しました。
普段私は頭の回転が速い方ではありませんが、その時は自分自身命の危険を感じていたので、自分でも信じられない程頭が冴えていました。
「ありがとうございます」と出来るだけ平然を装うようにお金を受け取りました。
一瞬、より安全を確保する為に「また何かありましたら」っとも言おうと思った。しかし、こんな人達はもう二度と関わりたくない。そう思ったのでそれはギリギリの所で抑えた。
N先輩「それじゃこれで失礼します」
そう言って三人は車に乗って帰る事になりました。
帰りの車中、私は井戸の中で見た光景をN先輩に聞きたかった。
あれは一体何だったのか。
あの時、N先輩は間違いなく私と一緒にあの白い二人の人のような姿を見ているんです。
でも聞けません。聞ける間柄でなければそんな空気でもありません。
そうして誰一人口を開かない状態で30分ほど車を走らせた時、N先輩が一度だけ私に対してこう言ってきました。
N先輩「今日の事は忘れろ。滅多にあることじゃねぇ」
そうしてそのままその日は家に帰る事になりました。
後日、冷静にあの時の事を考えた事がありました。
まず、人をそのまま捨てるなんて事、通常では考えられません。(簡単に捕まってしまいますから・・・)
でもなんであの時、袋に入れただけであの井戸に捨てたんだろう・・・
人なんて来ない程に山の奥の奥まで進みました。車が入ってこれない所もしばらく歩いて進みました。
でも、そのまま捨てるなんて事、そういう類の人間はしないんです。
そしてよくよく思い返してみれば、N先輩もツレの人も、詳しくは知らないという雰囲気に見えない事もありませんでした。
やがて、私は一つの結論にたどり着きました。
あの井戸の事。
兄貴だけは知っていたんじゃないだろうか・・・っと・・・。
こんな事があってからは、テレビや写真ですら井戸を直視出来ない体になってしまいました。
以上、私が井戸で体験した怖いお話でした。
もう一度言いますが、このお話は全てフィクションです。そっとしておいてください。
【実話の怖い話】学習する霊
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