【怖い話】長編#002|イカれた家族

私は基本的に霊感といった類のものは一切なく、これまで一度も幽霊を見た事がありません。

しかし幽霊を見る以上に怖い体験をしたお話を、ここではしたいと思います。

あれは小学6年生の時でした。

前の年の小学5年生の時に交通事故で母を亡くし、しばらくは精神的に不安定で家に引きこもりがちでした。

そしてその翌年、小学6年生にあがるタイミングで父方の実家へ引っ越すことになりました。

そこでは父と祖父母。そして妹をあわせた4人での田舎暮らし。

小学6年生ともなれば、クラスでは仲の良いグループが出来あがっていて、転校生なんて入る余地が無いようなイメージでした。

ですから私は学校に行きたくなかったのですが、このまま引きこもりを続けるのはよくないと父に説得され、学校に行く事になったのですが、きっと転校しても、友達出来ないだろうなぁと思っていました。

しかし行ってみるとその思いとは裏腹に、良い意味で田舎だったのでクラスメイトはみんな温かく迎え入れてくれました。

 

そうして自然と仲良くなったA子と過ごす日々が多くなり、徐々に私も彼女に心を開いていきました。

クラスにはもう一人B子という子がいて、その子はクラスの中でもひと際可愛く、男子からはマドンナ的存在でした。

そのB子は親が離婚していて母子家庭。私と違って死に別れという訳ではないのですが、環境が似ているという事もあって仲が良くなるのも自然な事でした。

しかしA子はB子の事をあまり良く思っていないのか、私はその日によってどちらか片方だけと過ごす、そんな日々が続きました。

 

そんなある日、B子に誘われて彼女の家に遊びに行く事になりました。

事前に渡された簡単な地図を手に、B子の家に着いたのですが、なんとそこにはB子の事をあまり良く思っていないA子の姿もありました。

一緒に遊ぶなんて事今まで一度も無かったのに、どうして突然B子の家に来ることになったんだろう。

最初は少し気になりましたが、3人が仲良くなれば私も嬉しいので、自然な素振りでA子と一緒にB子の家に上がる事にしました。

B子の家は建物自体が古く、築40年以上は経っている感じの一階建ての古民家で、かなり古臭く感じました。

チャイムを鳴らすと笑顔でB子が迎えてくれ、その後ろからB子のお母さんも同じく笑顔で迎え入れてくれました。

 

これは失礼な事ではあるのですが、そこに現れたB子のお母さんの服装は、とても貧乏な感じでボロボロの服を着ていました。

挨拶もそこそこにそのままB子の部屋にあがると、建物自体はとても古い家だったのですがB子の部屋は見事に可愛らしい作りで、女の子なら誰もが憧れるような部屋って感じでした。

ある一点を除いては・・・

 

B子のその部屋の片隅には、大きな等身大の男性のマネキンがおいてあるのです。顔は無表情で、まっすぐと入口の扉を開けた私達の方に向かって立っています。

マネキンは、女性が拳をうえにあげ手さげバックを肘にかける。そんな格好をさせられています。しかも両腕とも・・・

そして真っ赤なセーターのような服を着て帽子もかぶさせられており、パッと見さきほど見たB子のお母さんの格好よりもずっと良い物を着せられているイメージでした。

その異様な部屋の中を見た私とA子は、文字通り完全に固まって立ちすくんでいたら、B子がゆっくりと部屋の隅にあるマネキンの方まで歩いていきました。

 

そこですこし肩から下がったマネキンの服を正しながら、私たちの方を振り返りつつ無表情で一言こう言いました。

「素敵でしょ」

B子は無表情で一切の感情が込められてなくまっすぐに私達を見ている。その姿に私とA子はとてつもない恐怖を覚えました。

このまま部屋の前に立っているのもおかしいし、私は心の中で「あぁ、B子もお父さんがいなくて寂しいんだな。」と無理に言い聞かせ、すぐに自然を装う形で部屋にあがらせてもらいました。



どうして無理にそう自分を言い聞かせたのかと言うと、その部屋の光景があまりにも異様だったからです。

父親がいない寂しさから部屋にマネキンを置いている、そんな事で片づけられるような雰囲気ではなかったからです。

B子は私の友達。ここで驚いて引いた姿を見られ、仲が悪くなるのは避けたかったという思いはありました。

部屋にあがってからというもの、B子は一言も発さずマネキンの方を向いて黙って立っています。

 

部屋の中はとてつもない異様な空気につつまれ、私もA子もお互い目を合わせる事も出来ないくらい固まっていました。

そうして1~2分が経った頃、部屋に向かってくる足音と一緒にB子のお母さんが部屋にやってきました。

「みんな紅茶とケーキを持ってきたよ。」

その声と明るい表情を見て、私は正直「助かった」と思いました。

B子のお母さんが、紅茶とケーキがのったおぼんをマネキンとB子の近くの足元に置くと、私はすぐにある事に気づき違和感を覚えました。

それはなにかというと、紅茶とケーキが4つずつあったからです。

友達の家に行ったら大抵その親は、子供達だけで遊ばせるのが一般的です。私は「もしかしてB子のお母さんもここで一緒に食べるのかな?」と思いました。

 

その間もずっとB子は立ってまっすぐとマネキンを見つめています。彼女の後姿は、普段学校で見る明るくて可愛いB子とは思えないほど別人に感じました。

B子のお母さんは紅茶とケーキを4つずつ部屋に置くと、そのまま部屋を出ていきました。

すると突然B子は無言で少しこちら側を向くかのようにその場に座り、何事もないかのように紅茶を飲みだしました。

「とんでもない所に来てしまった。」きっとA子もそう思っていたに違いありません。

この家の人間はあれ(マネキン)を家族として扱っているようです。高そうな服を着せたり、自分たちが食べる物と同じ食べ物を差し出したり。

 

ただ、さすがにB子もその母親も「あれ」には話しかける事は無かった。

しかし家族同然に扱っているのは明らかで、もしこの家族が頭おかしい人達なら私たちに「あれ」を紹介してきそうな感じもするが、それが一切ないのも逆に不自然で不気味でした。

B子は最初マネキンの服を直しながら私たちに「素敵でしょ」と言ってきたのは、家族としてなのかマネキンとしてなのか、考えても考えても意味が分からないしどう接すれば良いのかわからない。

その中途半端な立ち振る舞いが余計私達を恐怖に包み離さない。

「明らかにこの家はなにかがおかしい。」

私とA子は床に置かれたケーキも紅茶も一切手を伸ばす事は無かった。なぜなら「あれ」のすぐ足元にあるから、怖くて手が出なかったと言った方が正しいのかもしれない。

 

そうしてさらに数分が経った後、この空気を変えたいと思ったのかA子がおもむろに口を開いた。

A子:あそこに猫じゃらしがあるけど、猫飼ってるの?

B子:いなくなっちゃった

A子:そうなんだ・・・

B子:うん。いらなくなったから

それを聞いた私はさらに固まった。

B子の言っている事がおかしいからだ。

いなくなった?いらなくなった?この子は何を言っているんだ?

するとA子が我慢できなくなったのか、急に「トイレ借りて良い?」と言うと、B子は「廊下の突き当りを右」と一切の感情が込められていない感じでそういった。

すぐにA子が部屋を出てトイレにいったが、私もその場を離れたい一心で、心の中では「A子早く戻ってきてA子早く戻ってきて」とひたすら繰り返し心の中で連呼した。

(部屋に向かってくる早めの足音「・・・タッタッタ。」)

 

A子がなぜか早めの足音と一緒に部屋に戻ってくると、一切B子の方を見る事も無く真っ青な顔をして私に「もう帰ろう」と言い私の手を掴んだ。

それを聞いたB子はゆっくりと私たちの方に顔を向け、完璧な無表情のままこう言った。

「あら、もう帰って来たの・・・いってらっしゃい・・・廊下の突き当りを右。」

言っている事がめちゃくちゃで、変わり果てたB子を見て私は大きく悲鳴をあげそうになった。

A子はそんなB子を見ても、青ざめた表情のまま一切ゆるがず、私の腕を引っ張って部屋から連れ出してくれた。

なぜか部屋を出た途端急に後ろが怖くなり、私たちは必至で玄関を勢いよく飛び出した。その後も立ち止まる事はなく、手をつないだB子と一緒に走れなくなるまでとにかく走った。

 

息がきれてもう走れなくなってきた頃、二人は足を止め、すぐにA子は私に向けてこう言い放った。

 

「もうB子と付き合うのはやめて。B子はおかしい。

 

でも、もっとヤバイのはB子のお母さん。」

 

そう言いながらA子は部屋から出た後、トイレに行った時の事を私に話し始めました。

トイレに向かう途中、すぐ隣にあった和室の襖(ふすま)が少し空いていた。A子はその和室を通り過ぎる時、何気なくその隙間から部屋を一瞬見てしまったそうなのです。

その和室の部屋の中は畳がしかれており、部屋の真ん中にはマネキンの腕が5~6本くらい並べて置いてあったそうです。

 

そしてその上にB子のお母さんがまたがり、天井を見ながらケラケラ笑っていたそうです。

それを見たA子はトイレに行くのをやめ、急いで部屋に戻り私を連れ出してくれたのです。

 

そんな出来事があった翌日、どんな顔をして学校に行けば良いのかと悩んでいましたが、B子はその日以来学校に来ることはありませんでした。

今思うと、そもそも最初に見たマネキンの腕の形がおかしかったのは、B子のお母さんが腕を取っては付け、なにかをしていたのでしょうか・・・

そしてこれは考えないようにしていたのですが、これを話していて、どうしても一度私の中から吐き出さないと気持ちが悪いので、お話させて頂きます。

B子は最初親は離婚したと言っていましたが、あの状況を見ると、ただ単に離婚しただけにはどうしても思えません。

そして飼っていた猫は何処に行ったのでしょうか。

B子は「いなくなった」と言った後に「いらなくなった」と私はしっかり聞いています。

父親と猫はどこに消えたのか。

とても信じられない話ではありますが、これが私が小学6年生の時に体験した全てです。



洒落怖くん洒落怖くん

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