【怖い話|都市伝説】#001狙われる視聴者

今じゃネット社会でDVDすらすでに古い物になりつつある最近、近頃の若い人なら知らない子も多そうだが、私が若い頃はVHSのビデオテープが主流だった。(黒くて長方形の大きいテープ)

その日は仕事帰りによく立ち寄るビデオレンタルショップに足を運んだ。私は何といっても大の映画好きで、これまでレンタルした映画は数百本にも上る。

そのよく行くビデオショップも、ハッキリいって店内の作品がどこに置かれているかの配置や、名前なども結構覚えてしまっているくらいだ。

そんな良く行く行きつけのビデオショップで、いつものように最初に新作をチェックしたが、今日は何も入荷していないようだった。そこで普段はあまり見る事が無い怖い話系のコーナーで、その日見る作品を探す事にした。

怖い話系は決して嫌いではないが、私は根っからの王道的な映画が好きなので、今までホラー映画を借りる事はほとんどなかった。

そうして怖い話系の作品で何か良さそうな物は無いかな~と探していた所、一番奥の一番下の棚。しかも一番隅に置かれた真っ黒なビデオケースに包まれた、タイトルが記載されていないビデオを私は発見した。

「何だろう?印刷ミスかな?」と気になり、しゃがんでそのビデオを手に取った。

表紙は見事に真っ黒で、裏面を見ても何も記載されていない、本当に真っ黒なケース。ただバーコードだけはしっかりと貼ってある。

気になったので店員さんに「これあそこの端っこに置いてあったんですが、何のビデオですか?」と聞いた。すると店員も知らないらしく、バーコードを読み込んでも「タイトル不明」と出るそうだ。

しかしバーコードが貼ってあるので借りられる事は借りられる。私はその日新作で見たい作品が一本もなかったので、面白そうだと思ってその真っ黒なビデオを借りる事にした。

店を出た後途中コンビニで酒を買い、もうかれこれ15年は住んでる見慣れた道を歩いて家についた。

家に着くと早速ビールを一口グビっと飲み、さっそく借りてきた真っ黒なタイトルが記載されていないビデオテープを私は使い古したデッキにいれた。その時そこで私は大きな過ちを犯した事に気付いた。

それはこの真っ黒なビデオは不良品の可能性は十分考えられ、再生しても何も映らないかもしれないからだ。そうなるとその日見るビデオは一本もなく、ただただ暇な時を過ごす事になるからだ。

どうしてもう一本他のを借りてこなかったんだ俺のバカ!

そう強く自分を責めながら、半分諦めた状態で再生ボタンを押すと、画面には見事に砂嵐が流れた。(昔のブラウン管テレビは何も映らない時画面に砂嵐がでる)

「あぁ~、やっぱり不良品かよぉ・・・」そう落胆していた時、急に砂嵐は止まり真っ暗な夜に人気もない、たまに家が建っているような長い一本道がそこに映し出された。

「おっ!?何か始まるのか?」

私は一気に嬉しくなり、黙って画面を見つめていた。そうして3分ほど経った頃、道のずっと先から一人の男らしき人がこっちに向かって走ってきているのが見えるようになってきた。

1分ほど待つとその男性は徐々にハッキリと見えてくるのだが、私は何かとてつもない違和感を感じていた。何に違和感を感じていたのかと言うと、その男性の格好が普通とは違うからだ。

そしてさらに男性が画面に近づいてくると、その違和感は見事に的中している事に気付いた。

男性は上半身が裸のスキンヘッドの男。

そして下半身はふんどし一丁で見るからに筋肉質な体系。

そして右手には建物を解体したりする時に使われるバールのような物を持ち、左手には家庭用包丁を握りしめ、その手は放す事が出来ないようにガムテープで拳の所がぐるぐる巻きになっている。

そしてその男性の顔は鬼のような形相で、さらに目が完全に吊り上がっていてとても不気味な怖い顔をしていた。

そんな異様な格好をした男性がカメラの方に近づいてくる頃には、その男性の視線はどうやらカメラの先を見ているようだとわかってきた。

そうして男性がカメラを過ぎると同時にカメラも一緒に動き出し、男性がひたすら走る姿を後ろからおいかけるようにビデオはそのまま続いた。

私はここまでビデオを見て直観的に「あ~、これはB級のホラー映画なんだな。イイネイイネ♪」と嬉しくなった。

買ってきたビールも2本目に差し掛かり、黙ってビデオを見ていたがそこである異変に気付いた。

すでに再生してから20分ほどが経っているのに、未だテレビから流れてくる映像は、走り続けるおかしな格好をした男性の背中をただただ追いかけて写しているだけだからだ。

さすがにB級映画でも20分ただ走るだけっていうのは、大の映画好きの私もこれまで経験した事が無かった。

「さすがに飽きてきたな」と思っていた頃、とある事に私は気づいた。その男が走っている所は私が住んでいる所とわりかし近い所だったからだ。

「えっ!?この近くで撮影されてたの?」っと驚くと同時に「もしかしてあのレンタルショップの店長とかが趣味で作った作品とか?」なんて考えにも及んだ。

そうしてさらに見ていると、だんだんと私が住んでいるマンションの近くまで差しかかってきた。

「あっ、俺ん家見えてくんじゃね?あっ見えた~!笑」なんてちょっとテンションが上がった頃、そのふんどし一丁でバールと包丁を持った男性は、なんと私が住んでいるマンションの中にそのまま走って入って来たのだ。

それを見た私はただの偶然にしてはこんな事本当にあるのか?っと戸惑っていた。

するとその男性はマンションに入るなりそのままエレベーターに乗った。私が住んでいるマンションのエレベーターは2~3人くらいしか入れないような狭い作りなので、男性の顔は自然とカメラに近くなる。

男性のカメラがわりかし画面に近くなった時、その男性の目を見て私は驚いた。

なぜならその男の目は見た事もないくらい真っ赤に充血していて、少し目からは血も滲んでおり明らかに普通の人ではないからだ。

これは当時の技術では不可能なんじゃないかってくらいその男性は血気迫る顔をしている。

これは本当にこういう顔をしているのだと私は直観し、同時に物凄く怖くなった。

その直後、その男性はエレベーターのボタン「6階」を押したその瞬間、私はさらにドキっとした。なぜなら私が住んでいる所は「6階」だからである。

その男性の異様な雰囲気と、私が住んでいる「6階」という偶然。

にわかには信じられないがそれでも心の底では「ただの偶然っしょ・・・」って考えだけが私をまだなんとか正気でいさせてくれた。

エレベーターが「6階」に到着すると、男性は勢いよく飛び出し廊下を走った。この時私は玄関の方から走る音が勢いよく自分の部屋に近づいてくるのを感じた。

一気に私の心臓は飛び跳ね、全身からは一瞬でとんでもない汗が出てくる。

テレビを見ると男性はそのまま廊下の一番奥、私の玄関の扉の前に立つやいなや、持っているバールで扉を強くたたき出した。

それと同時に私の部屋の玄関の扉が バンッ!バンッ!バンッ! と強い衝撃と音を発した。今この瞬間、起きている状況は到底瞬時に理解出来るものではない。

しかし現実的にそれはおこっているのだ。

テレビを見るとその血気迫る男性は、ちょっとでも隙間が出来たら今にも家に飛び入りそうなほどの勢いで扉をバールで強く叩き続けている。

左手には放す事が出来ない、ぐるぐる巻きになった拳と一体になっている包丁を手にしたまま、片手でバールを振り上げては扉にぶつけを繰り返している。

私は死ぬほど怖くなり、急いでそのビデオを止めると、部屋の扉を叩く音も同時に消えた。

とても生きた心地がしなかった。

そして恐る恐る音の止んだ玄関の扉を見に行くと、何事もなかったかのようにいつもの見慣れた玄関ドアがそこにある。今のは一体何だったんだ。そしてさっきビデオを止めていなかったら、私はあの後どうなっていたんだ。

その後買ってきたビールをまるで自分の意識を断ち切るかのごとく一気に飲み干し、私は無理やり眠った。

翌日。会社帰りに昨日立ち寄ったレンタルショップに借りてたビデオを返しにいったら、なんとその店は昨日が最後の営業日だったのか、店主の手書きと思われる紙がシャッターに貼ってあり、そこには「閉店しました」と書かれいた。

私は帰り道のコンビニで、その真っ黒なビデオテープを迷う事なく捨てた。

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