【怖い話】長編#001|なにかをひきずる徘徊者

あれは、かれこれもう10年くらい前、大学3年生の時のお話です。

大学2年生の時のクラスは全員が仲良かったので、その時のクラスメイトだった友人達を誘い、2泊3日のキャンプに行く事にしました。

 

行先は海が見えるキャンプ場。かなり余裕を持って早い時期からみんなを誘ったのですが、最終的に一緒にキャンプに行く事になったのは16人くらいでした。

キャンプ当日。

バスの中では各々が持参したミニゲームやらお喋りやらで、到着までの3時間という時はあっという間に過ぎ去りました。

 

目的地に到着すると、そこはかなり広い所で、海水浴場やキャンプ場等が集まった、いかにも夏になると大勢がおしかけてきそうな所です。

到着したのはお昼を過ぎたあたり。

まだ明るく時間もたっぷりあったので私たちは一旦荷物を置いて泳ぐ事にしました。

 

そこの海は遠浅(とおあさ)で、しばらく進むと徐々に足が届かなくなっていくのですが、そのあたりからテトラポットで作られた防波堤が設置されていました。

仲間4人ほどで防波堤に上り、その上でぺちゃくちゃお喋りをしていると、遠くから監視院が「そこに乗っている人!今すぐ降りてください!!」とすごい勢いで叫んできました。

私たちは大人数で来ている事もあり、そして夏の海という事も相まって普段はあまりヤンチャをしないグループも、その時はふざけて防波堤から降りたりまたのぼったりと、監視員をおちょくったりしていました。

大学生ともなればもう大人です。

 

小さい子供が防波堤に乗っているならまだしも、そこまで必死に注意する必要ってある?っていうくらい監視員がすごい勢いで注意してきたのを今でもハッキリと覚えています。

そうして2時間ほど泳いで遊んだ後、そろそろ頃合いかなと思い私と仲の良い友人二人でロッジのカギを借りに行く事にしました。

 

受付はそこそこ若い20代後半くらいの綺麗な女性の方だったのですが、私達を見ると「あ、さっき防波堤に乗って怒られてた子たちでしょ?」と言ってきました。

普段はあまり人に話しかけない私とその友人も、キャンプですっかりテンションが上がってしまっているので「見てたんですか?あの人ちょっと怒りすぎじゃないですか?」と話を返しました。

すると受付の女性の方は「ん~、あそこはね~。」と、知っているのに知らない振りをするかのような口ぶりで、軽くにごした返事をしてきました。

 

そんな感じで返されたら気になるのが普通です。私と友人の二人はしつこく「教えてくださいよぉ~!」ってお願いしていたら、その女性の方はこのようなお話をしてくれました。

 

受付の女性「昔ね、ある若いカップルが防波堤に座っていた所、突然高波が押し寄せて来た事があったの。

彼氏の方はとっさに防波堤にしがみついてなんとか振り落とされずに助かったんだけど、彼女の方は最初の高波にさらわれてしまい、すぐ次に来た強い波でそのまま防波堤に打ち付けられ、そして3回目に押し寄せた波がひけると同時に一緒に海に流されてしまったの。

 

そしてそのまま流されてからは未だに死体も上がっていないの。

後、これは噂なんだけど、二回目の波で防波堤に打ち付けられた彼女は顔面が半分ほど潰れ、目が飛び出たような状態で一度彼氏に「助けて」と言いながら流されていったとか。

それからその事件を機に、防波堤に乗っていると波にさらわれて死ぬ人が急激に増えたの。

 

波にさらわれる所を間一髪逃げられた人や、さらわれたけど助かった人達が、女性の声で「助けて」という声を聞いたり、顔がつぶれて目が飛び出した女性を見たって声も沢山あるの。

キャンプ場としてはそういった話が広まるのは好ましくないから、防波堤に乗っている人がいたら厳しく注意してすぐにおろす事にしているの。

監視員さんも悪気があって怒ってる訳じゃないから、驚かせちゃったらごめんね。」

っと受付の女性は最後に愛想笑いをしつつ、注意事項を説明しながら地図と一緒にロッジのカギを渡してくれた。場所はC-4。

一緒に来ている仲間の中には女性もいるので、今聞いた話は怖がってキャンプを楽しめなくなる人もいるかもしれないから、みんなには黙っておこう。そう友人と二人で決めた。

 

初日はその後みんなでバーベキュー等をし、2日目は夕方までみっちり泳いで遊びに遊んだ。

そうして二日目の夜、みんなでわいわい話をしていて2時間くらい経った頃だろうか。

そろそろ話しのネタも尽きて来たので仲間の内の一人が「怖い話でもしようぜ」と言い出した。

 

みんな順番に怖い話をするようになったのだが、それも徐々にネタが尽きてきた頃、私と一緒にカギを借りにいった友人は「どうせ明日には帰るんだし、受付のお姉さんから聞いた話しちゃってもいいよね」っという風になり、私がその話をみんなに聞かせてあげた。

それまでみんなが話した怖い話とは違い、私が今話した怖い話は今ここにいる場所にちなんだ話だから、それはもうみんな怖がって場は盛り上がった。

 

そうして話が終わった直後、突然懐中電灯を持った警備員らしき人が現れ、少し大きめの声で「A-5ってここですか?」と聞いてきた。

それを聞いて私は驚いた。話終わった直後にいきなり人が現れた事にもそうだが、何より驚いたのがA-5という番号だった。

仲間の内の1人がキャンプ場の地図を見ながら「A-5はすぐ隣ですよ」と答えた。

その横で私は反射的に思わず「今話したカップルが泊まってたのってそのA-5らしいんだけど」と口をもらしてしまった。

 

それを聞いた仲間達の多くが突然ロッジにキャーと叫びながら逃げ込んだ。

私は受付のお姉さんからカップルが泊まっていたロッジの番号を聞いていたんだが「AとCだから遠いだろう」と自然な思い込みで特に気にはしていなかった。

しかし渡された地図を改めて良く見てみると、ロッジの番号の最初についているアルファベットは、部屋の並びの列を示すものでもなんでもなく、その配置はまったく関係のないものだった。

そう、カップルが泊まっていたA-5はまさしく私達が泊まっているロッジの隣にあるのだ。

残された私と友人数名もロッジにもどり、しばらくして落ち着きを取り戻してきたころ、一人の友人がおもむろに口を開きだした。

「でもなんでさっきの警備員A-5の場所なんか聞いてきたんだろ?誰も泊まってないのに」っと。

 

すると別の友人が「いやいや、何言ってんのお前。泊まってたじゃん!しかもカップルが!昨日からいたじゃん!」と言う。

するとまた別の人は「泊まってなかったよ?俺まわりに誰もいないから騒げるなって思ったし」と言い出した。

そこで皆に聞いてみると、隣のA-5に泊まっているカップルを見たって人と、誰も泊まってないという人は半々くらいに分かれた。

そんな話をしていると、ずっと怯えて隅で膝を抱えていた女の子が「あの窓怖い。誰か閉めてきて!」と言いだした。

女の子が指をさしたその窓は、隣のA-5に向かう大きめの窓と小さい小窓が二つ並んだ所だった。

 

怖い話にめっぽう強い仲間の内の一人の男は「窓しめたら暑すぎて寝れないから無理」と強く言い返したが、怯えている女の子を見みている内にその恐怖が自然とみんなに伝わったのか、最初に断った男が最終的にしぶしぶ窓を閉めに行く事になった。

彼は最初に大きい窓を閉め、すぐ横の小さい小窓もバタンと勢いよく閉めた後、なぜか急に小走りになって戻ってきたと同時に声を荒げてこう言い放った。

「カップルいた!なんかベランダで2人でこっち見てる!しかも電気も付けずに並んで見てる!!」っと。

女の子たちはさらに怯えたが、一部の男は「お前こんな時に嘘つくなよ」と言いながら、別の3名の男が小窓を見に行った。

その3名の内一人がカーテンをちょっと開け、3名同時に小窓から隣のロッジを見ると、勢いよくカーテンを閉めて戻って来た。本当にカップルがこっちを見ているらしい。

残った男達は全員見に行ったが、私と一緒に最初にカギを貰いに行った友人の二人以外は全員カップルが見えたと言い出す。

 

泣き出す女の子もいて部屋は異様な雰囲気になり、みんなで小窓と反対側の壁の近くに集まって恐怖をやわらげようとした。

「これ洒落になんなくない?ヤバイよね?」とか話していたら、仲間の内の1人が「なんか音がする」とさらに追い打ちをかけてきた。

それを聞いて皆静かになると、確かに小窓の外の方からズルリズルリと何かを引きずるような音がする。

 

その不気味な何かを引きずる音を聞いてからは、皆で音から逃げるように壁に張り付いていた。

するとまるで私達がいる場所を知っているかのように、何かを引きずる音はロッジを回って私達が張り付いている壁のほうにやってくる。

これは人間の本能なのか、みんな物音を立てないように、そして音から逃げるようにその反対側の壁際に静かに移動した。

するとやはり私たちの居場所が分かっているかのように、何かをひきずる音はさらにこちらのほうにゆっくりと回ってくる。

 

ロッジの中を静かにその異様な音から逃げ回っていたが、どうやら何かをひきずる音はロッジのまわりをぐるぐる回っているらしい。

だから私達は自然とロッジの真ん中に集まった。そしてその状況下では声を発する者なんて一人もいなかった。

壁の向こうの「なにか」は、一晩中なにかをひきずりながらロッジのまわりを回っていた。

そしてたまに壁をすごい勢いで、しかも2~3人で叩くような音がした。

 

女の子は皆しくしく泣いていたし、男も皆半泣きだった。

何時間かたつと壁の向こうにいる「なにか」は、となりのロッジA-5のほうにゆっくりと帰って行った。

それから少ししてカーテンの隙間からは朝日が入ってきたので、日が差す直前まで「壁の向こうのなにか」は私たちのロッジの回りをぐるぐると回っていたようだ。

その間全員が一言も発する事はなかった。ロッジの中に私達がいるのがバレたらヤバイと直感的に思っていたからだ。

 

朝日が差し、しばらくして誰かが「早く帰ろう」と言った。

その言葉に皆我に返ったかのように、急いで荷物をまとめ、前日出しっぱなしだった外の片付けもほとんどせずに急いでカギを返しにいった。

懐中電灯やガスコンロ、持参した器具のほとんどは置いて帰った。1分でも早くその場から離れたい。皆その一心だった。

帰りのバス。仲間全員は一言も発さず皆下を向いていたのを覚えている。

後日談。

二日目の夜。ロッジの中にある小窓から隣にあるA-5を見た時、どうして最初に受付のお姉さんから話を聞いた私と友人の二人は、カップルが見えなかったのか。今でも謎です。

そしてこの出来事は一生忘れられません。

TOPページ⇒実話の最強に怖い話まとめ



洒落怖くん洒落怖くん

このお話が気に入ったらsnsで誰かに誰かに教えてあげよう。↓