研修時代に病院で本当にあった怖い話をしたいと思います。タイトルは仮に”車椅子の少女”とでもしておきます。
現在私は男性看護師をしている30代です。(これは10年以上経っても決して忘れる事が出来ない恐怖体験です。)
あれは研修時代に病院で勤務する事になった時の事です。
とある病室にはK子という16歳の少女が入院していました。
彼女は生まれつき体が弱く、何度も入退院を繰り返している子でした。
高校もまともに通う事が出来ない彼女は、そのイメージとは裏腹にとても明るくて人なつっこい子でした。
当時は男性看護師という存在自体も一般の人からすれば珍しかったのでしょう。
K子は私を見てはいつも気さくに話しかけて来てくれました。
K子「あっ、B男さん!(私の名前)」
私「今日も元気そうだね!」
K子「B男さんは今日も先輩に怒られてたんじゃないの~?ダメだよちゃんとしなきゃ~笑」
私「エッヘン!今日はまだ怒られてないぞ!」
慣れない研修勤務で私は緊張をしていたのですが、K子はそんな私を気遣ってか、まるで私の緊張をいつもほぐしてくれているようでした。
「(本当に良い子だ。早く良くなってほしいな・・・)」
顔を合わせればK子からいつも嬉しそうに話しかけてくれ、いつも元気な彼女を見ては勇気づけられていました。
そんな日が少しの間続いた時、私はいよいよ研修の終わりの日が近づいてきている事をK子に伝えました。
私「もう少しでお別れだね。」
K子「え~!そうなんだぁ・・・寂しいな・・・」
私「また絶対会いに来るから!」
K子「んじゃさB男さん!最後に一つだけお願いを聞いてくれる?」
私「ん?なんだい?」
K子「この病院の隣はもう使われていない、いわゆる廃病院なんでしょ?携帯で見たんだよね!一度で良いから夜中に連れてってよ!」
(その時の病院は10年くらい前に新しく作られた病院なのですが、前に使っていた古い方の建物は今はもう使われておりません。)
建物の中から以前の病院の建物の方に行く事は出来るのですが、一切使われていないのでその道も立ち入り禁止とされていました。
若い子は怖い話や心霊スポットが好きですから、どこかのサイトで見たんでしょう。
大人の耳には隣の廃病院が心霊スポットなんて話は一切入ってきません。
「廃病院ってだけで単純に心霊スポット可されているんだろう」とその時は思っていました。
私「ダメダメ!患者さんを夜中に連れまわすなんて絶対ダメ!」
K子「誰にも言わないからお願いっ!最初で最後のお願いっ!」
私「俺研修生だよ?そんなの主任にバレたらクビになっちゃうよ!絶対ダメ!」
K子「え~・・・・いじわるっ・・・」
K子が落ち込んでいる姿を見て、今まで忘れていた事を思い出しました。
この子はまだ子供なんだと。
K子は学校にも通う事が出来ず、自分でまともに歩く事も出来ないのでいつも車椅子で移動。
遊び盛り真っただ中の16歳の子供です。
私はその気持ちに応えたい、「そのくらい良いだろ」なんて感情はちょっとはありました。
しかし私も看護師のはしくれです。ルールを破る訳にはいきません。
そこは心を鬼にして断りました。
その翌日以降、K子は私の顔を見ても話しかけてくれることはありませんでした。
昨日の一件以来、すっかりK子に嫌われてしまったそうです。
正直とても悲しい気持ちになりました。
彼女の気持ち自体は本当に理解できる。でも大人としての立場・ルールもある。(そりゃずっと病院にいたら退屈だよな・・・しかもまだ16歳だもんなぁ。)
K子に仲直りしてもらいたくて私は何度もK子に話しかけましたが、その都度「フンっ!」って顔を合わせてもくれません。
そうしてK子との仲が改善しないまま、いよいよもう少しでお別れの日が近づいてきました。
私「K子ちゃん聞いて。もう少しでお別れの日なんだ。この後夜勤が少しあるけど、夜勤の時はほとんど顔を合わせる事も無いと思うから、今の内にきちんとお別れ言っておきたいな。」
K子「・・・」
やはり答えてはくれませんでした。
そうして研修生活の終盤、夜勤が入っていたある日の事です。
夜に病室を見回りしていると、私の存在に気付いたのかK子ちゃんがベッドの上から小声で私に話しかけてきました。
K子「B男さ~ん」
私はK子ちゃんに話しかけれ凄く嬉しくなりました。(良かった。このまま会話をしないでお別れをしなくて済みそうだ!)
私「どうしたの?眠れないの?」
K子「うん。。。あのさ、前に言った隣の廃病院に行かない?」
私「K子ちゃん。それだけは本当に出来ないんだよ。ごめんね・・・」
K子「そっかぁ・・・じゃあさ、内緒でちょっとだけで良いから二人でお散歩しない?」
私「それも見つかったら大変な事になるんだよね・・・ほんとにゴメン。」
K子「外じゃなくて良いの!病院内で良いからさ!」
これはなにかの本で読んだことがあるのですが、人間ってお願いをされた事に対して何度も続けて断る事は心理的にかなり難しいのだそうです。
それになによりK子ちゃんの事を考えたら・・・
看護師としてではなく一人の人生の先輩としての意見で言うならば、K子ちゃんの小さな願い一つくらいは叶えてあげたいという気持ちはずっと心の底にありました。
私「うーん・・・病院内なら・・・・」
K子「ほんと!ありがとう!」
(ちょっと病院内を気分転換に連れてくくらいなら、見つかっても大事にはならないだろう・・・)そう思う事にしました。
そして私はK子ちゃんを車椅子に乗せ、病室を後にしました。
私「K子ちゃん。ほんとにちょっとだからね。少ししたらすぐに戻るからね!」
K子「大丈夫だって!見つかったら私が強引に連れまわしたって言うから!」
夜みんなが寝ている時間なので、病院の廊下の明かりは薄暗くなっています。
その雰囲気がまた16歳という子の心を刺激しているのか、彼女はとてもキラキラした目をしていて楽しそうでした。
K「そこ右でお願いしまーす」
私「ヘイ!」
彼女が指示する方向は、その先何処に繋がってるのかというのは私には分かっていました。
病室からあまり遠くに離れていない距離にあるうちは、私は完全に彼女の言う事を聞いている”雰囲気”を演じる事に徹しました。
K「そこまっすぐいったら今度は左ね!」
私「ヘイ!」
そうしてK子の指示通り、言われた道をただただ進んでいました。(これで満足してくれるなら)
そんな時、ほんの一瞬、わずか数秒だったと思います。
一瞬だけ慣れない夜勤のせいか、私はボーッっとしてしまいした。
そしてハッ!っと気づいた時、周りの景色は見た事もない廊下を歩いている事に気付きました。
私「えっ!ここ何処!?」
あたりをキョロキョロしましたが、完全に見覚えのない廊下に立たされています。
K子「ここまっすぐね。止まらないでね。」
今までは後ろ姿だけでも、声の雰囲気からK子が笑顔なのが伝わっていたんですが、突然感情が籠っていないトーンで私にそう指示をしてきました。
K子は車椅子に大人しく座っており、微動だにせずにただまっすぐと前を向いています。
私「K子ちゃん、ここ何処!?」
K子「ここまっすぐね。止まらないでね。」
辺りを見渡すと、私は古い建物の廊下に立たされています。
外は薄っすらと紫色で、深い霧がかかっているのか景色が一切見えません。
そして数秒ほど私は固まって必死に考えました。
「もしかして・・・隣の使われていない建物(旧病院)に来てしまったのか・・・?」
その可能性が非常に高い事は、建物内の全体の古さから容易に想像が出来ました。
私「K子ちゃん、帰るよ!」
そう言って私は機敏な動きで車椅子の向きを180度切り返しました。
いえ、正確には切り返そうとしました。
切り返している最中、目の前の車椅子には誰も座っていない事に気が付きました。
私「あれっ?・・・・えっ?K子ちゃん!?」
今のいままで目の前の車椅子にK子ちゃんは座っていたのに、一瞬の内に彼女がいなくなってしまっていたのです。
これは大変だと思い、私は必死に「K子ちゃ~ん!どこ行ったの~!?」っと360度見渡しながら彼女の名前を呼びました。
するとほんの一瞬の間を置いて、K子ちゃんの声が聞こえてきました。
K子「B男さん、こっちだよ。」
その声は、20~30m先の方から聞こえてきます。
(彼女は一人でまともに歩けないのに、こんな一瞬の内にどうしてそんな先まで進めたんだ!?)
そう考えもしましたが、私は無事にK子ちゃんを病室に戻さないとマズイという考えが頭にありました。
私「K子ちゃん戻るよ!どこ~?」
K子「こっちだよ。こっち。」
私は誰も座っていない車椅子を押しながら、声のする方へと向かっていきます。
K子「まっすぐね。止まらないでね。」
そんなK子ちゃんの声が聞こえた時、私は何故か全身に今まで感じた事のない恐怖感を覚えました。
なぜなら、K子ちゃんを車椅子で押している時から何度か「まっすぐね。止まらないでね」っと言われていた事を思い出したからです。
「私は今、誰も座っていない車椅子を押しながらK子ちゃんの声のする方へ向かって歩いている。なのに”止まらないでね”とはどういうことだ?」
現状を考えたら、そのセリフはどう考えてもおかしいし不自然な言葉。(・・・怖い・・・・怖い・・・)
今すぐ車椅子を投げ出して一人逃げ出したい気持ちでした。
しかしそんな事、出来るはずがありません。
私は震える体を必死に気持ちだけで抑えようとしながら、声のする方に前へ、前へと進みました。
K子「もうすぐだよ。止まらないでね。」
K子ちゃんの声をたどると、やがて一つの古い病室の前にたどり着きました。
部屋の番号札は剥がされています。
私「K、K子ちゃんこの中にい、いるの・・・?」
返事はありません。
しかし間違いなくこの部屋からK子ちゃんの声がしていまいました。
私は恐る恐る扉を開けました。
扉を開けると、部屋の奥、窓際でK子ちゃんが椅子に座ってこっちを向いていました。
私「K子ちゃんそこにいたの。早く帰るよ。」
そういうとK子ちゃんはゆっくりと立ち上がったのですが、ゆっくり立ち上がっている最中、彼女の顔はなぜかモザイクがかかったように見えました。
そして立ち上がっている最中、その顔はみるみると変化していきました。
信じられない事に、完全に立ち上がる頃にはまったく違う、知らない女の子の顔になっていたんです。
少女「連れてきてくれてありがとう」
私の頭は思考回路を停止し、完全にパニックになっていました。
私「うわーーーーーー!」
気付いたら叫び声をあげ、私は車椅子も置いて今来た道を全力で走って逃げだしていました。
少し先にはエレベーターがある。エレベーターには電気が通っている。
走りながら無意識にそれを理解していました。
エレベーターの前に着いたらボタンを連打して扉を開け、中から無我夢中でめちゃくちゃにボタンを押しました。
「早く閉まれ早く閉まれ早く閉まれ早く閉まれ」
目の前には今来た長い廊下があり、明かりは一つも無く真っ暗です。
やがてゆっくりとエレベーターは上へあがりだしました。
「俺は何処にいる・・・今のはなんだったんだ・・・K子ちゃんはどこいった!」
全身汗だくになり、下を向きながらいくら考えても頭の整理がつきません。
やがてエレベーターが「チーン」という音と共に、扉が開きました。
主任「B男さん、なにやってるの!?」
私「あっ、あっ、、、」
声にならない声を発しています。
主任「何してるの!早く戻りなさい!」
私「あっ、けっ、けっ、」
主任「真っ青な顔をしてどうしたの?そんなに汗もかいて。大丈夫なの!?」
私「けっ、K子ちゃんが・・・」
主任「えっ?」
私「K、K子ちゃんがいなくなりました」
主任「なんですって!」
そうして主任に連れられるがまま、二人は足早にK子ちゃんの病室に向かいました。
主任「K子ちゃん、ちゃんと寝てるじゃない」
私「えっ、、、えっ、、、、」
主任「あなた大丈夫なの?本当に顔色悪いわよ?帰った方が良いんじゃないの?」
私「あっ、でも、、、あれ、、、」
そうしてその日は主任に説得され、早退する事にしました。
その日起きた出来事を思い返しても、何一つ理解が出来ませんでした。
翌日、恐る恐るK子ちゃんの病室に確認しに行きました。
K子「あっ、B男さんだ~!」
彼女は以前のように私に明るく話しかけて来てくれました。
そこで私は昨日の事を彼女に話しましたが、K子ちゃんは何を言っているのかまるで理解出来ないような態度でした。
昨日はいつものようにベッドで寝ていたと言うのです。
オチというオチもなく、今こうして文字に起こしてみると、怖い話というよりかは不思議な話に近いかもしれません。
しかし実際こんな体験をしてみると、恐怖の何物でもなかったのが正直な気持ちです。
これは10年以上経った今でも決して忘れる事の出来ない、私が体験した病院で本当にあった怖い話です。
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