人看護師が病院の夜勤見回りで体験した一番怖い話【天井】

これは私がまだ1年目の新人看護師だった頃、病院の夜勤で見回りをしていた時に体験した怖い話です。

私が勤務している病院は総合病院で、患者さんは全部で100人弱くらいのそこそこ大きい病院でした。

看護師は(先生ももちろんそうですが)とても神経を使う仕事です。

1年目なので仕事に徐々に慣れてくる頃ですが、「慣れ」という物は怖い物です。

仕事が仕事なので、慣れちゃダメだという意識はなぜか持っていました。

毎日仕事に追われていて、一切余裕が持てていない頃でもあったんですね。

一緒に働く先輩方は大抵の事が起きても動じず、いつも冷静に対処している姿を見て私は「私もこんな風になれるのかな・・」なんていつも自信を失っていました。

決して焦る事がない姿に憧れの気持ちも抱いていました。

 

そんな中、優しくも厳しく、私に指導してくれる先輩でB子さんという方いました。

B先輩はまさに「鉄の女」という言葉が似合うような、真面目でベテランの看護師さん。(年齢は40代)

あまり冗談を言うようなタイプでもありませんでした。

とある休憩中、B先輩に私は気になっていた事を聞きました。

私「夜勤の見回りの時、三階の303号室あたりでなぜかいつも視線を感じるんですが、B先輩は感じませんか?」

 

夜勤の見回りの時、なんとなくですが三階の303号室の近くになると、どこからかいつも視線を感じていました。

もの凄く強い視線という訳では無いので、ずっと気のせいだと自分に言い聞かせていました。

ただその視線はいつも必ず感じるので、その内「何かちょっとおかしくない?」って思うようにもなっていたんです。

B先輩「ん?気のせいじゃない」

私の顔を見る前、首元くらいに視線を上げたのに目を合わせずそう一言だけ言い、そのまま食事を続ける先輩の姿はそっけなかったです。

私「そうですか~。気のせいかな・・・?」

 

今までは気にしない様にしていたのに、なんとなく一度口にしてしまうと、人間って自然と気になる物だとこの時から思いました。

その後の夜勤の見回りの時、やはり三階の廊下、303号室付近で視線を感じます。

前・横・後ろ。

いつも視線の元がまったくわからないので、いい加減ちょっとふざけ半分で天井すら見た事があります。

↓私の勤務している病院の天井ってこんな感じです。

グルっと見渡しましたが、天井にももちろん何もありません。

 

「どこかにネズミでも隠れてこっちを見ているのか?」

そう思うしかありませんでした。

 

後日、また休憩が一緒になったB先輩に視線の事を聞いてみました。

私「先輩。夜勤の時だけなんですが、303号室付近でやっぱりいつも視線を感じるんですよね」

私が話しかけた時の先輩の顔は至って普通だったのですが、「303号室~」の部分になった途端、ほんの僅か、ミリ単位で先輩が眉間にしわを寄せたのを私は見逃しませんでした。

先輩「そっかー。一度ちゃんと言わないとダメかな。」

私「はいっ!?」

急にそんな事言われるなんて思ってもみなかったので、この時はとてもドキッっとしました。

先輩「そういうの気にしてたらこの仕事やっていけないよ。」

先輩にそう言われた時、「私が今まで夜勤の時に限って感じていた視線は気のせいじゃないんだ」って確信しました。

私「先輩も感じるんですか?」

先輩「感じるよ。でももういいでしょ。その話はおしまい。」

先輩は具体的な会話をしたくないようでした。

“えっ!?〇〇ちゃんも感じるの!?私も視線感じるんだよね~。”
“嘘~!こわーい!”

そんな流れになった所で、デメリットしかない事を先輩の対応の仕方で私はすぐに理解しました。

夜勤は定期的に交代で必ず行うものだし、私達も仕事です。生活する為には仕事を続けなくてはいけないんです。

それを余計に怖がって、さらに話して解決する事でもない。話題にあげる事がどれだけ意味のない事か、逆効果にしかならない事か、想像が出来ました。

 

そして私は”自分が子供だった”という事を察し、少しの間をおいてこう言いました。

私「そうですね。すいません。」

先輩「分かればよろしい。」

私を見た先輩は、”理解してくれたようね”といわんばかりに少し肩の力を抜いてそう言ってくれました。

(こういう話は暗黙の了解じゃないけど、看護師の間ではタブーなんだ・・・)

 

それからというもの、夜勤の見回りの時はプロ意識を持って、303号室付近で視線を感じても私は一切気にしない様にしました。

(この視線は気のせいじゃないけど、気にしない。)

 

それから数か月が経ったある夏の日。またいつものように夜勤の見回りをしていた時です。

三階の303号室付近に来ると、その日はいつも以上に、まるで体中に視線がつき刺さるかのような強い視線を感じ、私は思わず一瞬体が宙に浮く位「ビクッ」っと硬直しました。

もう何十回も夜勤の見回りをしていましたが、今までこんなに強い視線を感じた事がありませんでした。

(えっ!なになになに!!?)

体が硬直し、肩は驚きで強く萎縮している。

明らかにいつもと違う・・・

 

その視線の強さに、私は固まった状態のまま辺りをゆっくりと見渡しました。

 

後ろ・・・・・・・・・何もいません。

 

壁・・・・・・・・・・もちろん何もありません。

 

いつも視線を感じても気にしないようにしていましたが、実は腹の底では分かっていたんです。

303号室で何かが起きたんじゃないかって。

 

これまで心の中で蓋をしていた、303号室に対する恐怖心が一気に噴き出してきました。

「何かいる・・・?」

全身恐怖に支配されながらも、視線はゆっくりと303号室の方に向いています。

「見ちゃダメだ見ちゃダメだ」

そう頭ではわかっているのに、何故か視線は303号室の方にゆっくりと動いています。

 

視線に入った303号室の扉。

ドアの隙間、隅々までゆっくりと凝視しました。

 

しかしそこには何もありません。

 

「良かった・・・」

 

そう安堵した筈が、いまだ強い視線を体中に感じていて身動きが取れません。

 

そして唯一見ていない天井。しかし天井なんて何もあるハズがありません。

そう分かっていたので、天井に向けてスーーっと視線を上にしました。

 

すると天井には、模様一つ一つ全てに目があって、その全ての目が私を見ていました。

 

思わず思いっきり叫びそうになりましたが、深夜の病院の廊下でそんな大声を上げる事は出来ません。

私は喉元までこみあげてきた恐怖心をグッっとこらえ、走ってその場から一心不乱に逃げ出しました。

 

後にも先にも、そんな体験をしたのはその日一度だけでした。

 

 

後日。なんであの日だけあんな事が起きたのか気になって考えてみた事があります。

 

そこで一つだけ思い当たる事がありました。

その日は8月14日。

そう・・・・お盆だったのです。

 

そしてもう一つ。

私は元々休みだったんですが、何故か「お盆の夜勤だけはどうしても変わってほしい」と、2年目の先輩に強くお願いされてその日は夜勤をする事になっていたんです。

 

それも頼まれたのは5月です・・・

 

そんなに前からなら同じローテーションに入っている別の先輩に変わってもらうように言えばいいのに、おかしいと思ったんです。

 

なんでわざわざ私に?しかも3ケ月も先なのに。

 

おかしいと思ったんです・・・

 

みんな分かってたんですね・・・



洒落怖くん洒落怖くん

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